ここでは、世界の石炭・エネルギー産業事情について当館名誉館長 松井紀久男が独自の視点で解説します。
鉱業界とAI(人工知能)
梅雨が明け、本格的な台風のシーズンとなり、近年大型化している台風の動向に気が抜けなくなっている。台風の予測含めて天気予報には近年AI(Artificial Intelligence:人工知能)を活用する試みがなされている。このAIは、「学習」「認識・理解」「予測・推論」「計画最適化」など人間の知的活動をコンピュータによって実現するものと定義されています。
1950年代、1980年代にこのAIはブームとなりながら、ハードとソフト分野での専門性の高さやルール作りの難しさから広く普及しなかった。しかし今、社会の様々な課題解決や新たな価値創造を実現する技術として、再び大きな注目を集めています。その背景として、コンピュータテクノロジーの飛躍的な向上や高度なアルゴリズム開発が挙げられます。
コンピュータテクノロジーの進化に伴い、これまで働いていた人たちがいなくなっている。電話交換機の出現により電話交換手がいなくなり、自動改札機の開発・導入で改札駅員が消え、電算写植の導入で印刷所から植字工がいなくなった。また、最近ではJR各社で無人駅の増加や無人化電車運転が進んでいる。レポートの作成や戒名作成にもAI活用とのニュースも流れるこの頃である。日々進化し続けるAIは、今後さらに我々の仕事を奪うのではないかと思われる。
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーンとカール・B・フレイの共著論文によると、「今後20年間で米国の総雇用者の約47%の仕事は自動化されるリスクが高い」という。また、2018年3月に死去した著名な理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士は「完全なAIの開発は、人類の生存に終止符を打つだろう」と警告しており、ハリウッド映画「ターミネーター」に描かれた悪夢の世界の到来が危惧される。
近年、鉱業界においてもAIの活用が進んでおり、鉱業の生産性や効率化に大きく貢献している。具体的には、AIは鉱業作業に必要な種々の機器の故障予測や鉱床探査、安全管理などに活用されている。特に鉱床探査においては、AIが過去の膨大な地質調査データや衛星画像等のデータから新たな鉱床の存在を自動で予測することで、従来の方法に比べ、大幅な時間とコストの削減が期待できる。今後の更なる発展で日本での金や銀、レアアースやレアメタル等の地下鉱物やエネルギー資源の発見や開発が始まる可能性もある。ひょっとするとあなたが所有している土地の地下にも多くの資源が眠っているかも?先ずは鉱業権設定出願を!
AIは進化するために日々休むことなく新しい知識の獲得に努めている。そのために大量の電気を必要としている。すなわち、これまで以上に多くの電気を作り出す必要に迫られている。さて、どのようにして大量の電気を確保するのか?石炭や天然ガスの化石エネルギーの利用を推し進めるのか?地球温暖化をどうするのか?酷暑の夏が近づいている!ご安全に!
ドイツの坑内掘り炭鉱イーベンビューレンの思い出!!!
アスパラガスのおいしい季節となるこの頃、ドイツのレストランで食べたオリーブオイルで炒めたアスパラガスを思い出す。この思い出が、初めてのドイツの坑内掘り炭鉱見学へとつながって行く。
時は、1990年代後半の6月、ドイツ・デュッセルドルフで開催された岩盤工学に関する国際会議の後、個人的なつながりでドイツの坑内掘り炭鉱であるイーベンビューレン炭鉱を坑内見学をする機会を得た。
世界のトップクラスの坑内掘り採炭技術を有していたドイツは、2018年12月31日で残されていた最後の2つの坑内掘り炭鉱を予定通り閉山した。そのうちの一つであるイーベンビューレン炭鉱は、私が見学した当時世界で一番深い地表下1,500mの切羽で原料炭(コークス炭)を年間200万トン程度採掘していた。
採炭はドラムカッターかホーベルによる長壁式で行われていた。
ドイツで開発されたホーベルはこの炭鉱で実用化された歴史を持っている。
岩盤条件が良好な箇所では、全自動の採炭システムが開発・導入され、坑外からのオペレーターの操作で採炭作業が行われていた。
この全自動採炭システムは、アメリカ、チェコ、中国の炭鉱にも導入されたそうである。
北立坑坑底(深度1500m)にある操車場は、保安炭柱の影響下と周辺区域の採掘による高地圧帯にあるため岩盤工学的に考慮された特殊な可縮・可屈枠の支保システムを開発・導入し、直径10mの必要断面を確保していた。
長壁式採炭パネルのゲート坑道もアーチ形の30m2近い大断面であり、支保は坑道掘削後3段階で施す。
すなわち掘削後の1段階の10m区間はボルトによる側壁・天盤の1次支保、その後の2段階として増しボルトで補強する2次支保、そして最終的な3段階で鋼製アーチ可縮枠とコンクリートによる裏込め支保で堅固に固め、長壁式採炭により生ずる高地圧帯の作用においても必要な坑道断面を維持する。
坑内着に着替え、必要な装備で身を固めた後、北立坑で入坑し、坑道掘進現場や長壁式切羽採炭現場を見学し、ケージで昇降する。昇降して全身石炭で真っ黒のまま、無色透明でアルコール度数が高い蒸留酒であるシュナップス(Schnaps)を2-3cc程度を一気に呑み干す。
これは無事昇降したことを感謝する一種の儀式のようなものである。同様な儀式はチェコの炭鉱でも経験し、おそらくポーランドやウクライナやロシアなどヨーロッパの坑内掘り炭鉱でも行われていた(いる?)と思われる。日本ではこのような習慣は無く、夕方5時以降の打ち上げでゴールデンタイムは始まる。
皆さんご安全に!!!

この図は世界の石炭生産推移を表し、生産量は一時停滞/減少した時期もあるが、最近は増大の傾向にある。現在90億トンを超える生産の半分近くを中国が生産し、次いでインド、インドネシア、豪州と続いている。欧米は天然ガスや再エネへの転換により石炭消費量は減少しているが、中印の増加がそれを上回っている。今後ともこの傾向は継続して行くものと思われる。

この図は石炭の埋蔵量を示している。石炭は地球上に広範囲に賦存しており、2022年度で見ると世界の埋蔵量は約1兆1千億トンで、年間90億トンの生産と仮定すれば、可採年数は120年程度となり、他の化石燃料(石油、天然ガス)よりも2倍以上長い。
